副業インフルエンサーの経費はどこまで?料理・旅行は経費になるか
「料理アカウントを運営しているから食材は全部経費」「旅の発信が仕事だから旅行代は経費」——会社員の副業として発信活動をしている人がやりがちな考え方ですが、そのまま申告すると否認されるリスクが高い領域です。趣味や生活と地続きの支出は、税務上もっとも厳しく見られるからです。この記事では、料理系・旅行系を例に、経費にできる部分とできない部分の線引き、もらった商品も収入になるというルール、「副業赤字で節税」の落とし穴までを、国税庁の一次情報をもとに整理します。
・経費にできるのは「収入を得るために直接必要な部分」だけ。生活費との混在部分は、明確に区分できる場合のみ按分で経費にできる
・料理の食材も旅行代も「全額経費」はまず通らない。投稿・案件と紐づく記録が生命線
・副業が赤字でも、雑所得の赤字は給与と相殺(損益通算)できない
副業の発信収入は「雑所得」が原則
広告収入・アフィリエイト・企業案件の報酬・投げ銭など、会社員が副業で得る発信系の収入は、原則として雑所得(業務に係る雑所得)です。2022年の通達改正で線引きが明確になり、帳簿を付けて保存していれば収入300万円以下でも事業所得と扱われる余地がありますが、帳簿がなければ原則雑所得とされます[国税庁 通達改正]。帳簿があっても、収入がごく少ない・営利性がない場合は個別判断です。
年末調整を受けている会社員は、給与以外の所得(収入−経費)が年20万円以下なら所得税の確定申告は不要です[国税庁 No.1900]。ただしこれは所得税のルールで、住民税には20万円ルールがありません。確定申告をしない場合は、お住まいの市区町村へ住民税の申告が必要です。医療費控除やふるさと納税で確定申告をする年は、20万円以下の副業所得もあわせて申告します。詳しくは副業の確定申告ガイドをご覧ください。
経費の大原則|「生活費」と「仕事の費用」の3区分
経費にできるかどうかは、支出を次の3つに分けて考えるのが基本です。雑所得の必要経費は「収入を得るために直接要した費用」に限られます[国税庁 No.1500]。
| 区分 | 中身 | 経費にできるか |
|---|---|---|
| 家事費 | 純粋な生活費(家族の食事、私的な旅行・買い物) | できない |
| 家事関連費 | 生活と仕事が混ざった支出(食材、通信費、機材など) | 業務に必要な部分を明確に区分できる場合のみ、その部分だけ |
| 必要経費 | 収入を得るために直接必要な支出(撮影専用機材、案件の交通費など) | できる |
インフルエンサー副業の支出はほとんどが真ん中の家事関連費に当たります。だからこそ「どの投稿・どの案件のための支出か」を説明できる記録(按分の根拠)が重要になります[国税庁 No.2210]。
ケース①料理系インスタグラマー|食材は「撮影に使った分」だけ
「毎日の料理を投稿しているから、毎日の食材が経費」——これは通りません。作った料理を家族で食べている時点で、その食材には生活費(家事費)の性格が強く混ざるからです。
| 支出 | 判定の目安 |
|---|---|
| 投稿・レシピ開発のために特定して買った食材(試作分含む) | 経費になりやすい(投稿と紐づく記録が前提) |
| 撮影用の器・盛り付け小物・背景布・照明・三脚 | 経費になりやすい |
| 発信テーマに直結するレシピ本・料理講座 | 按分または実態次第 |
| 家族の日常の食事・撮影後にそのまま夕食にした分 | 経費にならない(家事費) |
| キッチンのリフォーム費用の全額 | 経費にならない(撮影専用スペース等の明確な区分がない限り) |
月の食材費5万円のうち、投稿12本のために特定して購入・使用した食材が1.5万円分(レシートに印を付け、投稿と対応させて記録)→ 経費にできるのはこの1.5万円分が上限。残り3.5万円は家族の食事=家事費。「食材費の何割」というどんぶり勘定ではなく、支出ごとに業務部分を特定するのが原則です。
ケース②旅行系インフルエンサー|旅行は最も厳しく見られる
旅行は誰にとっても楽しみ=家事費の性格が最も強い支出です。「発信のための旅」と主張しても、観光やレジャーの要素が混ざっている限り、全額経費はまず認められません。経費性が認められやすくなるのは、次のような場合です。
- 企業案件・タイアップとして行く旅行で、報酬や契約と対応している
- 行程の大半が取材・撮影・編集に充てられ、実際にコンテンツとして公開され、収益と結びついている
- 同行する家族・友人の分を含めていない(同行者分は原則経費不可)
年に数万円の広告収入に対して数十万円の旅費を経費計上して赤字にする——これは「趣味の旅行の付け替え」と見られる典型例です。収入と経費のバランス、公開したコンテンツ、案件との対応関係を説明できないなら、経費計上は控えるのが安全です。判断に迷う支出は経費になるかグレーなもの10選の考え方も参考になります。
ほかのジャンルも考え方は同じ
| ジャンル | 経費になりやすいもの | 厳しいもの |
|---|---|---|
| ファッション・美容系 | 撮影専用で私的使用しない衣装・小道具 | 普段も着る服・コスメ・美容施術(私的使用と不可分) |
| ゲーム実況 | 実況したゲームソフト・配信機材 | 実況していない私的なゲーム・課金 |
| ガジェット紹介 | レビューのために購入した機材(レビュー後も私用するなら按分) | レビューと関係ない私物 |
| 共通 | 編集ソフト・サーバー代・撮影交通費・打ち合わせ費用 | スマホ代・自宅家賃の全額(業務部分の按分のみ) |
共通の判断軸は「その支出がなければその投稿・収入はなかったと説明できるか」「私的な利用と明確に区分できるか」の2つです。
「副業赤字で税金が戻る」に注意|雑所得の赤字は給与と相殺できない
経費を積んで副業を赤字にすれば給与の税金が戻ってくる——という話を見かけますが、雑所得の赤字は他の所得と損益通算できません[国税庁 No.2250]。赤字はその年で切り捨てになるだけです。
「事業所得として申告すれば損益通算できる」という形の節税スキームも、帳簿の有無だけでなく営利性・継続性・収入規模を含めて実態で判断され、実態が趣味なら否認されます。会社員の副業でこの形を勧誘された場合は、節税スキーム商品の検証で解説している「うまい話」の典型と考えて慎重に判断してください。
商品やサービスの「提供」も収入になる
企業案件で現金報酬の代わりに商品やサービスの提供を受けた場合、それは経済的利益=収入です。市場価格(時価)相当額を収入に計上します。例えば市価3万円の家電の提供を受けてレビュー投稿をしたら、3万円の収入があったのと同じ扱いです。招待旅行も同様に考えます。「お金をもらっていないから申告不要」ではない点に注意してください。提供時の案内メールや契約内容は保存しておきましょう。
実務はこの3つだけ押さえる
① 記録:投稿・案件と支出を紐づける(レシートに投稿の日付や企画名をメモ、案件のやり取りを保存)。帳簿を付ければ事業所得(青色申告)への道もひらける
② 申告:副業所得(収入−経費)が20万円を超えたら確定申告。20万円以下でも住民税の申告は必要
③ 住民税:確定申告時に副業分の住民税を「自分で納付(普通徴収)」にすると、会社経由の通知で副業分が載りにくくなる。あわせて勤務先の就業規則(副業の可否)も確認を
まとめ
よくある質問
料理アカウント用に作った料理の材料費は全部経費にできますか?
できません。撮影・レシピ開発のために特定して購入・使用した分だけが経費の対象で、家族で食べる日常の食事分は生活費(家事費)です。レシートと投稿を紐づけて、業務に使った分を説明できるようにしておくことが前提になります。
旅行系の発信をしていれば旅費は経費になりますか?
全額はまず認められません。企業案件や収益と対応し、行程の大半が取材・撮影で、実際にコンテンツとして公開されている場合に、業務部分が経費として認められやすくなります。同行する家族・友人の分は原則経費にできません。
商品をもらっただけでお金を受け取っていなくても税金がかかりますか?
かかる場合があります。案件の対価として受け取った商品やサービスは経済的利益=収入で、市場価格(時価)相当額を収入に計上します。給与以外の所得が年20万円を超えれば確定申告が必要です。
副業が赤字なら給与の税金が戻ってきますか?
雑所得の赤字は給与所得と損益通算できないため、戻りません。事業所得なら損益通算できますが、帳簿の有無だけでなく営利性・継続性など実態で判断され、実態が趣味と見られれば否認されます。
副業の利益が20万円以下なら何もしなくていいですか?
所得税の確定申告は不要ですが、住民税には20万円ルールがないため、市区町村への住民税の申告が必要です。また医療費控除などで確定申告をする年は、20万円以下の副業所得もあわせて申告します。
参考リンク(出典)
本記事は次の公的資料をもとに作成しています(中立・一次情報)。
- 国税庁 所得税基本通達の改正(雑所得の例示・令和4年10月)
- 国税庁 タックスアンサー No.1500 雑所得
- 国税庁 タックスアンサー No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
- 国税庁 タックスアンサー No.2210 やさしい必要経費の知識(家事関連費)
- 国税庁 タックスアンサー No.2250 損益通算
※本記事は一般的な情報提供であり、税務上の助言ではありません。経費にできるかどうかは個々の実態で判断が分かれます。具体的な申告のご判断は、税務署または税理士にご確認ください。







