外国法人・非居住者による日本企業のM&A(株式取得)の税務
円安と後継者不在(事業承継)を背景に、海外のファンドや富裕層による日本企業の買収が増えています。日本企業を買う方法は大きく株式取得(会社ごと買う)と事業譲渡(事業だけ買う)の2つ。この記事では、買い手が外国法人・非居住者である場合に特有の税務——日本株式の譲渡益は原則非課税だが重要な例外があること、配当への源泉徴収、恒久的施設(PE)、租税条約——を、国税庁の一次情報をもとに整理します。
・株式取得と事業譲渡で、消費税・簿外債務・繰越欠損金の扱いが変わる
・非居住者・外国法人の日本法人株式の譲渡益は原則、日本では非課税。ただし事業譲渡類似株式・不動産化体株式などは課税
・買収後の配当には源泉徴収(原則20.42%)。租税条約で軽減・免除される場合がある
まず前提|株式取得か、事業譲渡か
買い手の税務は、どちらのスキームかで大きく変わります。
| 観点 | 株式取得(会社ごと) | 事業譲渡(事業だけ) |
|---|---|---|
| 取得対象 | 会社の株式(法人格ごと承継) | 特定の事業・資産(法人格は残る) |
| 簿外債務 | 原則引き継ぐ(デューデリが重要) | 引き継がない(選んだ資産負債のみ) |
| 消費税 | 株式の譲渡は非課税(消費税かからない) | 課税資産の移転に消費税10%がかかる |
| 許認可 | 会社が持つ許認可を原則維持 | 取り直しが必要な場合が多い |
| 売り手の税 | 株主に譲渡益課税 | 会社に譲渡益(法人税) |
海外の買い手による中堅・中小企業の買収は、手続きが比較的シンプルな株式取得が選ばれることが多いです。以下は株式取得を中心に解説します。
核心|非居住者・外国法人の「日本株式の譲渡益」は原則非課税、ただし例外
非居住者・外国法人が日本法人の株式を売って得た譲渡益は、原則として日本では課税されません(国内源泉所得に当たらないため)。しかし、次のような場合は例外的に日本で課税されます[国税庁 No.2878]。買収後に将来売却(エグジット)する際に効いてくる論点です。
| 課税される主なケース | ポイント |
|---|---|
| 事業譲渡類似株式 | 発行済株式の25%以上を保有する株主グループが、その年に5%以上を譲渡した場合。会社を実質的に譲渡したのと同視され課税 |
| 不動産化体株式 | 総資産の50%以上が日本の不動産である法人(不動産関連法人)の株式を一定割合以上保有して譲渡した場合 |
| 日本のゴルフ会員権的な株式 | ゴルフ場利用に関する株式の譲渡 |
| 買集めによる譲渡・日本滞在中の譲渡 | 同一銘柄の買占め後の譲渡や、日本滞在中に行う譲渡 |
過半数〜100%を取得する通常のM&Aでは、保有割合25%以上・売却5%以上をほぼ確実に満たすため、将来売却したときの譲渡益は事業譲渡類似株式として日本で課税される可能性が高くなります。また、日本の不動産を多く持つ会社(不動産化体株式)は、割合にかかわらず課税対象になりやすい点に注意が必要です。「株式だから日本では非課税」と単純に考えないことが重要です。
租税条約で結論が変わる
上記は日本の国内法の話で、買い手の居住地国と日本との租税条約があると結論が変わることがあります。多くの条約は、株式譲渡益の課税権を「譲渡者の居住地国のみ」とする一方で、事業譲渡類似株式(25%/5%基準)や不動産化体株式は日本でも課税できると定めています(例:日本・シンガポール租税条約13条)。条約の有無・内容によって課税されるかが分かれるため、買い手の国籍・居住地に応じた確認が欠かせません[財務省 租税条約]。
買収後の「配当」には源泉徴収
買収した日本の会社から、海外の株主(非居住者・外国法人)へ配当を出すときは、源泉徴収が必要です。国内法では原則20.42%(上場株式の配当等は15.315%)ですが、租税条約により0%・5%・10%・15%などに軽減されることが多くあります。軽減を受けるには、支払前に「租税条約に関する届出書」を提出する必要があります[国税庁 No.2888]。親子会社間(一定の持株比率)では配当免除の条約もあり、資本構成の設計に影響します。
「恒久的施設(PE)」に注意
外国法人が日本国内に支店・事務所などの恒久的施設(PE:Permanent Establishment)を持って事業を行うと、そのPEに帰属する所得は日本の法人税の課税対象になります[国税庁 No.5281]。買収の受け皿として日本法人(SPC)を作るのか、外国法人が直接持つのか、どこにマネジメント機能を置くのかで、PE認定や課税範囲が変わります。ストラクチャー設計の初期から国際税務の専門家を入れるのが安全です。
買った会社側の税金も引き継ぐ
株式取得では、対象会社は法人格ごと承継されるため、その会社の法人税・消費税・地方税の納税義務や税務ポジションもそのまま引き継ぎます。特に繰越欠損金は、株主が大きく入れ替わると使用が制限される規定があり、買収後の節税に影響します。買収前の税務デューデリジェンス(過去の申告・簿外リスクの点検)が重要です。会社自体の税金の全体像は法人の確定申告ガイドを、非上場の株式の値付け(時価)は非上場株式の取得と評価をご覧ください。不動産を直接持つ場合との比較は外国人の日本不動産取得と税金で解説しています。
まとめ
よくある質問
海外の会社が日本企業の株式を買って、将来売って利益が出たら日本で課税されますか?
原則として非居住者・外国法人の日本法人株式の譲渡益は日本では非課税ですが、例外があります。発行済株式の25%以上を保有するグループがその年に5%以上を売る「事業譲渡類似株式」や、総資産の50%以上が日本の不動産である会社の「不動産化体株式」などは日本で課税されます。過半数を取得する通常のM&Aは、出口で課税対象になりやすいと考えてください。租税条約でも取り扱いが変わります。
株式取得と事業譲渡では、税金はどう違いますか?
大きな違いは消費税と承継範囲です。株式取得は株式の譲渡自体に消費税がかからず、会社の資産・負債・許認可・税務ポジションを丸ごと引き継ぎます(簿外債務も承継)。事業譲渡は選んだ資産・負債だけを引き継ぐ一方、課税資産の移転に消費税10%がかかり、許認可は取り直しになることが多いです。
買収した日本の会社から海外の親会社へ配当すると、税金は引かれますか?
引かれます。非居住者・外国法人への配当には原則20.42%(上場株式等は15.315%)の源泉徴収があります。ただし租税条約により0%・5%・10%・15%などに軽減されることが多く、支払前に「租税条約に関する届出書」を提出することで軽減税率が適用されます。
外国法人のまま日本企業を持つと、日本で法人税がかかりますか?
株式を保有しているだけなら、その配当・譲渡益の課税が中心です。ただし外国法人が日本国内に支店・事務所などの恒久的施設(PE)を持って事業を行うと、そのPEに帰属する所得は日本の法人税の対象になります。受け皿を日本法人にするか外国法人にするか、マネジメント機能をどこに置くかで課税が変わるため、設計段階で専門家に相談してください。
参考リンク(出典)
本記事は次の公的資料をもとに作成しています(中立・一次情報)。
- 国税庁 タックスアンサー No.2878 非居住者等から株式を取得等した場合/国内源泉所得
- 国税庁 タックスアンサー No.2888 租税条約に関する届出(配当等)
- 国税庁 タックスアンサー No.5281 恒久的施設(PE)の範囲
- 財務省 租税条約(我が国の租税条約ネットワーク)
※本記事は一般的な情報提供であり、税務上の助言ではありません。課税の要件・割合・基準や租税条約の内容は個別事情・国により異なり、改正されることもあります。M&Aの税務は複雑なため、必ず国際税務・M&Aに精通した税理士・弁護士等にご確認ください。







